2012年04月14日

わめき散らす女。――[758]生誕19,327日

 夜中の2時近く。我が家のドアの外、で女の声がする。何やら、わめいている。どこだ?誰だ? 隣か? よもや我が家ではあるまいな? 仕事をほっぽり出して玄関口に行き耳を澄ませば、どうやらドア外の通路で男と揉めている模様。
 「13年間だよ。(語気を強め)何の報いもないまま13年だよ。十ぅ三年!毎日毎日太る薬を飲み続けて」。
 その意外な言葉に、さらに耳をそばだてる。太る薬? 13年間それを飲み続けたって?マジ? どんな薬だ? さらによく聞こうと野次馬オッサンはついに小窓を3センチほどこっそり開ける。
 「おまえはそんな私に文句が言えんのかっ? どうなんだ、言えんのかっ?ええっ?」
 女のわめき声は止まらない。顔が見えないので、どれだけ太ってるんだ、この女、と興味は募るが、時折、合間にぼそっと入る男の低い声が聞き取れずイライラする。
 明らかに女は酔っているし、二人は多分まともな関係ではなかろう。女のヒステリック度合いは収まることを知らず、ヒートアップする一方。おいおいこれは刃傷沙汰になるんじぇねーの?と思いながらも野次馬は小窓の前から動かない。
 「13年だぞ、それがどういうことか、おまえにわかんのかっ?」
 女は壊れたレコードのように「13年間」を繰り返し、だんだん馬鹿馬鹿しくなってきた野次馬は小窓を閉めて部屋に戻るものの、女のわめきはいよいよ強大化してゆく。おいおい、もう2時半になるよ。(私、20分ほども聞いていたんですね)
 ああ、ダメだ。これじゃ、うるさくて仕事に戻れない。たまりかねて玄関前に行き、迷わずドアを開けて顔を出す。
 「すいません、もう夜中遅いんで……」
 と、すかさず背を向けていたわめき女が振り返って我が言葉をぴしゃりと遮るように、「迷惑ですよね、わかってます。わかってますんで」
 女は年の頃、40くらいか。多少ぽっちゃりしていたが、想像していたほどには太っていず(なぜか少しがっかり)、通路の隅で壁に背をもたせかけていた茂木健一郎似の冴えない中年男は、ただ困惑顔を固まらせて我が身を見るのみ。
 こちらも呆れたような顔で男をにらみつけ、ドアを閉めて部屋に戻ると、おお、注意した甲斐があった。すぐに二人は立ち去ったらしく、夜の静寂が戻ってきた。注意してみるもんだね。
 と思いきや、今度は部屋の窓の外でわめき声がする。「わかってんのかっ? おめぇはサイテーだ、人間じゃねーよ」
 二人は外に出て舗道で第2幕を始めました。しかも外に出て開放感に助長されたのか、声はいっそうデカい。

 やれやれ……。

 今日は11月公演の新作ドキュメンタリーシアター『産まれた理由』の取材会議。どこの誰に取材をするべきなのか、全員で情報を共有する。その上で、「何を聞くべきなのか、どこに焦点を絞ればいいのか」とさらに芝居の方向性について話し合う。
 「産まれた理由」ねぇ……。
 まだ路上でわめいている、あの中年吠えまくり女にも、私としてはぜひ聞いてみたい。

 「あなた、どうして自分は産まれてきたんだと思います?その13年間のために産まれたんだと思えます?」
逃走中。.JPG

逃走中。
posted by 老い日記 at 00:00 | Comment(0) | 日記