2010年06月06日

老い日記[80]――生誕18,648日/禁煙33日目

 
 吉祥寺シアターに『ドレッサー』を観に行く。
 劇場入り口で久々に、一跡二跳の公演に少女の役で出演してもらったことのある男優Sさんを見かける。煙草を吸ってたSさん、こちらに気づいて「お!」、こちらも近づきながら「お!」。
 「久しぶりだね」と挨拶を交わし、握手なんぞ求めて「今度ホラ、あの芝居に出るんだよね?」などと話を繋ぎ、「んじゃ、お先」と言って劇場内に入って座席につくと、しばらくしてやってきたSさん、隣の席でした。(笑)
 終演後、主演の俳優Kさん、女優Oさんを楽屋に訪ねて挨拶。Kさんに「決まってる店があるんだけど」と飲みに誘われるが、我が体、まだまだ自由に酒はいただけませぬ。なので、「今から稽古なんで、また今度」と言って、久しぶりのSさんにも別れを告げて稽古場に向かう。

 その稽古、主演の若手男優Oが休みのため、自然と罵詈雑言の矛先は残る若手男優のS&Nに向かう。なぜ、奴らは経験が学習にならないのか?
 違う違う、何やってんだ、と止めるたびに前に出てやってみせ、気がつけば誰よりも演じてる時間が長い。俺、俳優?
 
快気祝い.jpg
稽古場に遊びに来てくれたHに快気祝いをもらう。開けてみると、酒。嫌がらせか?
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2010年06月05日

老い日記[79]――生誕18,647日/禁煙32日目

 
 新国立劇場に井上ひさしさんの『夢の痂』を観に行く。
 劇場に入るや新国立劇場プロデューサーのYさんにいきなり、「98%は大丈夫だって?」と言われて驚く。「早っ」。思わず口をついて出る。なんという情報伝達の速さ。
 もちろんYさんは我が快復を喜んで声をかけてくれたのだが、人の親切に慣れていないひねくれ者は逆に戸惑う。「古城さん、癌になったってよ」「あの人も終わったね」。そういった噂も千里を駆けめぐっていたのではないかと勘ぐりたくなる。

 夕方から美術家Iさんも参加して、『眠れる森の死体』の美術実験。劇場空間が狭いのに置かねばならぬ道具が多すぎて、果たして「演技エリア」がきちんと確保できるのか。この非常に初歩的な問題で大いにつまづいている。
 誰だよ、この作品でここの劇場を押さえたのは? もちろん、この芝居を熟知しているひねくれ演出家です。(泣)

夕日.jpg
西新宿の夕日。バカ高いビルが林立する街なのに、不思議と陽射しは燦々と降り注ぐ。
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2010年06月04日

老い日記[78]――生誕18,646日/禁煙31日目

 
 診察カードを受付機に挿入、PHSを慣れた手つきで受け取り、表示に従って、これまた馴染みとなった「51番」で待つこと約10分。名前が呼ばれて診察室に入る。
 17日ぶりに会う担当Y医師は、なんだか懐かしの戦友のよう。「熊本は大丈夫でした? あちらで病院にかからずにすみました?」「はい、おかげさまで。紹介状、書いていただいてありがとうございました」と挨拶を交わした後、切除した癌細胞組織検査の結果が淡々と告げられる。
 我が早期胃癌、病変18mmの周囲には癌はなし。深さも粘膜層内にとどまっていて粘膜下層まで到達しておらず。リンパ節等への広がりも認められず。つまり完全切除、成る。胃を半分切り取る再手術の必要なし。
 「再発する可能性は95%、いや98%ないと思います」
 Y医師がなぜパーセンテージを言い直したのか、その3%にどれほどの意味があるのか素人にはさっぱりわからないが、とりあえず癌撲滅に勝利したことはわかる。「今後は経過観察ということで、半年後に内視鏡を入れて、CTを撮りましょう」
 やりました。我が体、まだしばらくは生かされし。ここに、3月19日に突如として始まった「古城十忍・癌物語」、無事に閉幕。おめでとう。(拍手喝采)
 と思いきや、Y医師がまたも淡々と言葉を継ぐ。「再発防止のために、ピロリ菌を除菌しておきましょう」「……ピロリ菌、ですか?」「ええ。検査結果でピロリ菌が見つかってますんでね」「はぁ……」「薬を1週間服用していただければ大抵の方は駆除できますから、その上で呼気テストをして、除菌できたかどうかを確認しましょう」
 どうやらピロリ菌は胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃癌などと浅からぬ因縁があるらしく、ここで沸々とブンヤ(新聞記者)魂が頭をもたげる。「どれくらいの数の菌が今いるんですか?」「数はちょっとわかりませんが、呼気テストである程度はわかります」「薬の服用だけで菌はなくせるんですか?」「ええ、大抵の方は。中には菌が残る方もいらっしゃいますけど、その場合はさらに薬を変えて服用してもらいます。それでほぼ、除菌できますよ」「ほぼってことは、それでも残る人がいるってことですね?」「数パーセント程度ですが。あと服用中に副作用の出る方も何割かいらっしゃいます」
 副作用? Y先生、なんだか健康とは程遠い話になってきてませんか?
 「下痢になったり、中には味覚障害が起こって食べ物の味がわからなくなる人もいるんですが、でも服用が終われば副作用も治まりますから、ちょっと我慢して1週間飲み続けてください。途中でやめてしまうと効果がなくなるので」「(これ以上の抵抗は無意味と判断し)……わかりました」「お酒は飲まれますか?」「(何を今さら聞くんだと思いつつ)いえ、今回のことがあってから、ずっと飲んでませんが」「そうですか。この薬の服用中もお酒は飲まないでください。飲むと薬が効かなくなりますから」「(えー、またもお預け?と思いつつ)……わかりました」
 こうして次回、呼気テストの日を予約。薬を服用後、しばらく時間をおかねばならないらしく、予約日は3カ月以上も先。
 癌物語は終わったものの、新たに第2章となる、「古城十忍・ピロリ菌物語」の幕開け。こんな展開、誰が予想する?

 それでも、とりあえず癌とはオサラバしたんだと晴れ晴れとした気分で病院を出て、生まれ変わった気分ついでに散髪に向かう。
 「鬢の白髪も部分染めしてください」、明るく言うと、理容師は残りわずかな我が髪を掻き分けつつ、まじまじと見て、「染めるのはやめといたほうが……」。
 え? これまた予想外の展開に、驚いて鏡越しに理容師を見る。「頭皮がずいぶん荒れて、炎症のようになってるところもありますから、皮膚がもっと傷むと思うんですよ」「いやでも、部分的にちょこちょこってやれば大丈夫じゃないですか?」「いやぁ、どうかなぁ。すいません店長、ちょっといいですか」
 店長までやってきて我が少ない髪を掻き分け頭皮観察。そして、「炎症が治まってからのほうがいいと思いますよ」。
 いやあの、俺ね、今日生まれ変わったんだから。ある意味、記念だから。髪もスッキリさせてさ。心の中で激しく説得にかかるが、店長はきっぱり、「お勧めできません」。
 ……人間、思うように生まれ変われるもんじゃありません。

 稽古終了後、劇団員を何人か誘って軽く飲みに行く。
 だって癌物語、打ち上げだよ? ピロリ菌との闘いが始まったら禁酒が続くんだよ? 今日ぐらい記念にいいんじゃね?
 いくつも理由を並べ立てるこの男、自分に甘い甘い。ほとんど駄々をこねるクソガキ同様なり。しかしながら、ずいぶん久しぶりの生ビール。さすがに美味し。俺って健康。一瞬だけ思う。

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すっかり馴染みの飲み屋に入るような気分で入る「51番」。

 手を洗って.jpg
病院内のトイレの貼り紙。「どういたしまして」
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2010年06月03日

老い日記[77]――生誕18,645日/禁煙30日目

  失ってしまうと二度と取り戻せない。残念ながら、そういうものは確かにある。
 例えば、膝の軟骨。調子がいいときは意にも介さないでいるが、アタタタと思い出したように膝は痛む。決して治っているわけではない、というか、治りようがない。失った軟骨は増殖してはくれないから、磨り減ったまま、不意に痛みが走る膝となんとかうまく付き合っていくしかない。
 例えば、下がってしまった歯茎。歯と歯の隙間が少しずつ広がって、やたら食べ物が詰まるようになったら、それはもう手遅れ。その隙間が埋まることは二度とない。「歯周病は進行を食い止めることはできても、改善されて歯茎が伸びることはないんですよ」。もう何度も歯医者から聞かされている言葉を噛みしめながら、次第に(歯茎が下がって)長くなっていく歯を寂しく見つめるしかない。

 薬で痛みは消えたものの、違和感の残る左下の奥歯を治療せんがために、歯科医院へ勇んで出かける。
 「じゃ今日は左下の奥の歯に麻酔を打ってクリーニングしますね」と言った歯医者、口の中を覗き込むや、「あ、ここ、歯茎が腫れてますね」と奥歯の手前の糸切り歯の歯茎を指でぐいぐい押す。「痛いですか?」「多少。でもそれほどでもないです」「膿がたまってますね」「こっちの歯茎も少し腫れてるんですけど」「ああ、ホントですね、こっちも膿がたまってますね」「でもそんなに痛みはないです」「今日は麻酔はやめて、この2個所を膿を出して洗いましょう」
 最も違和感のある左下の奥歯の治療はまたしてもお預け。放っておけばおくほど、左奥の歯茎がみるみる下がって歯が抜けるんじゃないかと気が気でないが、歯医者は宣言した2個所をガシガシ洗って抗生物質を入れて、「はい、じゃ今日はこれで」。 ……歯周病との闘いはまだまだ果てしない。

 ところで、「FOR RENT」の貼り紙が貼られたまま借り手がつく気配のない空きスペースが近所にある。以前ここは24時間オープン(夜間は無人)の自動レンタルビデオ店だった。夜間はカードを使って店内に入り、機械にカードを挿入、借りたいDVDをチョイスすると機械から出てくる。新作が165円と安かったのでそれなりに重宝していたのだが、そのプリペイドカードに新たに3000円チャージした途端に、店は閉じた。
 そんな、これって詐欺じゃないのか? このお金も失って二度と取り戻せないのか?
「FOR RENT」を見るたびに言いようのない虚しさに包まれる。

 その一方で、もちろん失ってしまったほうがいいものもある。例えば、いつのまにやら発生してしまった癌細胞。きれいサッパリなくなってくれれば、こんなに有り難いことはない。
 さてさて我が胃癌。このまま完治なのか、胃を半分摘出する再手術になるのか。明日、運命の審判が下される。

かつてレンタルビデオ店.jpg
かつてレンタルビデオ店。バカヤロー、金返せ。
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2010年06月02日

老い日記[76]――生誕18,644日/禁煙29日目

 
 鳩山総理が辞任表明。小沢幹事長も道連れ辞任。号外が出るであろうニュースをシラけた思いで受け流し、昼から東北沢のスタジオで『眠れる森の死体』の映像撮り。
 ライティングやサイズ決めにも時間がかかり、何度もテイクを繰り返すが、老体監督はすぐに集中力が切れるので、後に撮ったカットほど、「まぁ、いいんじゃない」「なんとかなるんじゃない」を連発して次々にOKを出す。結局、編集勝負ですもんね、映像のGさん。後は任せた。

 撮影は5時頃に終了。直ちに撤収し、そのままハイエースで新宿の稽古場に移動。よっしゃ、今日から久々の劇団のウォーミングアップを張り切ってやるぜと臨んだものの、体、硬い硬い。動かない。柔軟性はどこへやら。腹筋、上がらない。背筋、反れない。あがるのは息だけ。「しばらく何もせずに放っておくと、いいですか皆さん、人間の体はここまで機能しなくなります」と、誰かに教えたくなるほど驚きを通り越して、むしろ感心。左肩に比べ右肩が異様に硬くなっている事実も判明。いかんいかん、これでは健康体に戻ったとは言い難い。一刻も早く、歌って踊れて柔軟性抜群の演出家に戻らなくては。

 『眠れる森の死体』ではポラロイドカメラを使う場面があるのだが、今やポラロイドカメラは骨董品の領域にあると思い知る。まずフィルムが製造中止。入手するにはネットオークションしか方法がなく、それも1万数千円という高値。
 この芝居の初演は15年前。我が身の気持ちは何ひとつ変わっていない気でいても、15年という歳月で体は恐ろしく硬くなるわ、当時のカメラは骨董品になるわ、実はいろんなことが相当に変わっている。「まだまだ若いもんね」と言いつつ、その変化にまるで気づかない。それが何より「老い」の証明なのかもしれぬ。

水.jpg
「午後の紅茶」とか「プロティン・ウオーター」とかに、ついつい手が出るのだが、ダメダメ、人間、水を飲みなさい、水を。
「霧島の天然水」は我が故郷だからという依怙贔屓は抜きに、かなり美味い。「よなごの水」は後味がやや苦手。金属っぽさが少々、後を引く。
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2010年06月01日

老い日記[75]――生誕18,643日/禁煙28日目

 
 先週同様、大学での実習授業のため上野に赴く。先週の「やりたくなくてもビシッとしなさいビシッと」ムードが功を奏したのか、学生にかなり嫌われ、今日の受講者は18人に激減。
 それでもワークショップには程良い人数になり、ビシッとやる学生たちがほとんどだったので内容は進む進む、即興演技にまでチャレンジ、俳優よりも面白い学生もちらほら。

 授業を終え、次回公演『眠れる森の死体』のフライヤーなんぞ配って「お疲れさまでした」と引き揚げたのだが、着替え終わって更衣室を出たところで出くわした女子学生に「あの、この中に先生の名前はどこにあるんですか?」とフライヤー片手に尋ねられる。女子学生は裏面の顔写真が並んでいる辺りを指し示していたので、あろうことか俺を俳優とでも思っているのかと訝りつつフライヤーをひっくり返し、「作・演出 古城十忍」を「これ」と言って指さすと、「つくってる人なんですか?」と素っ頓狂な声が返ってくる。なんか妙な会話だなと思いながら、「つくってる人なんです」と答える。彼女からすれば、俳優もスタッフもつくってる人ではないのだろうか? 彼女自身、アーティストの卵だろうに、この大学の学生たちはどうも掴みどころがない。

 本日、その『眠れる森の死体』の稽古初日。
 いきなり立ち稽古で1場・2場を返しつつ進める。若手男優が大きく鍵を握るこの芝居、想像以上に茨の道になりそうだという確信だけを持って今日は終了。
 ああ、恐ろしや。胃の痛む日が続くことになるのか?

上野恩賜公園.jpg
上野恩賜公園。あっちにもこっちにも、いつもわらわらと人があふれかえっているのだが、あ、このアングル、今誰もいない、と珍しい無人の瞬間をカシャ。と思ったら左隅に小さくサラリーマンの姿が……。無念。
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2010年05月31日

老い日記[74]――生誕18,642日/禁煙27日目

 
 昼過ぎに米子空港に到着。航空券はSKIPなので、余裕をかましてフライト15分前に保安ゲートへ。ところが、航空券が受け付けない。バーコードをかざしても「ピー」、不穏な音がしてはじかれる。係の人に「1階のカウンターで手続きしてください」と言われ、「でもこれ、SKIPですよ」と憮然としてチケットを突きつける。「あ、ホントですね」「(鼻息荒く)でしょう?」「ちょっと待ってください」と係の人は上役らしい人にチケットを見せる。すると、その上役らしき人は少しも臆せず、「お客様、これは明日のチケットです」
 なぬ? 明日の? なぬ? よくよく見ると、チケットには間違いなく、「6月1日米子→羽田」の文字が……。
 慌てて1階に下りてカウンターに行くと、地上勤務の担当者は「インターネットで日にちを間違えてお取りになってますね」と勝ち誇った(ように見える)顔で言う。いや、取ったのは俺じゃなくて文化振興財団だし、と無用の論戦を展開したくなるが、そこはぐっと堪えて、「いやそれはいいんですけど、次の便に乗れますか?」「では、こちらを一旦キャンセルし払い戻しをした上で、改めて東京までの片道料金をいただくことになりますが、よろしいですか?」。
 よろしいも何もほかに選択肢はなく、それでお願いしますと焦って答えると、電卓をこれ見よがしに(そう見える)目の前で叩いてみせ、「払戻金が19,980円、羽田までの片道運賃が31,500円ですので差額分は11,520円になります」
 そんなにするのかよ?と思いつつ開けた財布には1万円札が1枚、千円札が2枚。スッカラカンになって小銭だけを握りしめ、急いで飛行機に駆け込む。もちろん最後の搭乗者。
 土壇場で慌てふためく羽目になり、治りかけている(と思う)胃が急激にシクシクと痛む。

 夕方から『誰も見たことのない場所』の稽古。後半を返しつつ、ほぼ最後まで通る。これでしばらくこちらの稽古はお休み。なのにまだまだ上演には程遠い有り様。
 立ち位置や出ハケなど、おびただしい段取りを軽やかにすっ飛ばすSKIP機能が芝居にもあればいいのにと切に思う。

999?.jpg
JR米子駅前に広場には「米子版・銀河鉄道999」が。天へ旅立つ、というより道向かいの安ホテルにそのまま停車しそうに見えて、悲哀が漂う。
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2010年05月30日

老い日記[73]――生誕18,641日/禁煙26日目

 
 一日中、室内に籠もって劇作家育成講座。4人の新人劇作家の卵を相手に10時30分から20時30分過ぎまで、みっちり9時間しゃべり倒す(途中1時間休憩)。
 メールで我が癌情報は回ってたらしく、みんなが心配してくれるが、「あー、全然変わってない」「もっと痩せてるかと思った」といった言葉に、期待外れのようなニュアンスを強く感じるのは被害妄想なのか?

 講座の会場は今回、米子市内の小さな公民館だったのだが、休憩時に玄関先の外に出ていたら、地元劇作家のSさんが煙草をくゆらせながら道向かいのビルを指さし、「あのビルが2人殺された殺人事件の現場ですよ」と言う。
 話を聞いてすぐ、「もしや、あの事件か?」と思い当たって聞き返したら、そうだった。
 鳥取地裁で去年、2人を殺した被告に対し検察が死刑を求刑しなかった、つまり検察側が弁護側に負けず劣らずの情状酌量を汲み取ったことで話題となった裁判があった。この事件は裁判員裁判で初の死刑求刑もあり得ると注目されていて、実は先月の旗揚げ公演『死ぬのは私ではない』のアフタートークでも中日新聞記者の片山夏子さんとこの裁判についてあれこれ話していた。その殺人事件現場だった。
 その「石谷ビル」は見るからに寒々しかった。ほかのフロアの会社も今ではすべて退去し、すっかり幽霊ビルと化していた。死体は屋上に放置され、3カ月後に発見されたときには腐敗が相当進んでいたという。事件が起こったのは昨年2月21日。もう1年以上が経過しているのに、まだ死体の腐臭が漂っている。そんな印象を与える殺伐としたビルだった。人間も建物も、一瞬にして崩壊へと突き進む。そういうこともある。

 講座終了後は講座の人たち数人と飲み会。自覚症状は少しもないのだが、病み上がりの体をいたわるつもりで「ホットゆず茶」なんぞを注文。戯曲の話も殺人事件の話もほとんどなくて、ひたすらバカ話で盛り上がり、0時半過ぎにホテルに戻る。
今日はおかげさまで、疲労感たっぷり。

殺人現場.jpg
殺人現場。周囲の建物が低いので、このビルの異様さが際だっていた。
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2010年05月29日

老い日記[72]――生誕18,640日/禁煙25日目

 
 6時半に目が覚めて起き出したものの頭がどんより重く、体も目覚めてくれる感覚がないので、二度寝を決めて結局9時すぎに起床。このところ、「目覚めスッキリ」から日々遠のいていっている気がする。いったい何が足りないのか? 睡眠の長さ? 深さ?若さ?

 昼過ぎまで、わっせわっせと原稿を書いて羽田空港へ。
 夕方のフライト時間まで羽田で打ち合わせを二つ。まずF女史と制作打ち合わせ。その後、美術家Iさんと芝居2本分の美術打ち合わせ。2本ともに「おお、面白そうじゃん」という方向性が見いだせて、わくわく気分が上昇。
 Iさんは今も悪性リンパ腫と格闘中。見た目、ほとんど変わってないので、そんなに心配してないのだが、抗ガン剤を投与してしばらくは免疫力が低下するため、いろいろと大変らしい。その抗ガン剤投与ももうすぐ終了予定とのこと。このまま美術家も演出家も「ひとまず健康体」に戻れればいいのだが。

 6時発の飛行機で米子へ。今日は珍しく機内では爆睡することなく、大半を読書で過ごす。気圧の変化で耳が痛くなることもなし。40代半ばに差し掛かった頃から耐えられないくらい痛くなっていたのに、2年ほど前からまた全然平気になってきた。これは耳が慣れたってことなのか? それとも何らかの器官がぶっ壊れてバカになってるってことなのか?
 到着後、今後の打ち合わせをすませ、その後、地元の演劇人と飲み会。といっても、車だったり、下戸だったり、病み上がりだったりして、アルコールは誰一人口にせず。それでも、だらだら、ぐだぐだ、尽きることなく会話が続き、ホテルに戻ったのは午前0時半近く。意外に疲労感は少なし。都会にはない新鮮な米子の空気で若返ったか?(たぶん気のせい)

薬局?.jpg
近所の不思議な店シリーズ。
看板に「病気に負けない健康造り」「三慶堂薬局」と書いてあるのに、1階はリサイクルショップ。薬局はどこにもなし。もしかして、この看板もリサイクル商品?
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2010年05月28日

老い日記[71]――生誕18,639日/禁煙24日目

 
 渋谷の地下の喫茶店に独り、アイスカフェオレをすすりつつ、じっと待つ。ドアが開く度に素早く視線を走らせるが、待ち人は現れず。10分経過、メールを打ってみる。返信なし。20分経過、電話をかけてみる。留守録なり。30分経過、何事もなし。よもや?と思いつつ席を立つに立てないでいた35分経過後、ようやく電話が入る。
 「あれ? 今日5時ですよね?」と待ち人は驚いたように言う。「2時ですよ」「え? え?」「5時までなら時間取れますって僕が言ったら、Tさんが2時って指定したんじゃないですか」「え? でも俺、手帳に5時って、え?あれ? え?」
 待ち合わせていた舞台美術家Tさん、錦糸町の稽古場にいるらしく、約束はご破算に。いいんですよ、Tさん。僕はお茶を飲むためだけにわざわざ渋谷に行きたかったんです、もう全然気にしないでください。渋谷で独りで飲むアイスカフェオレ、激ウマでしたから。(泣)
 喫茶店を出て、さぁてどうしようと思っていると再びTさんから電話。「ほんとだ、2時でいいですか?って俺、メール打ってたね」。だから間違ったのはTさんなんですってば!(激泣)

 手術して17日が経過。医者からは「治るのに4週間かかります」と言われていたが、取り立てて不都合・違和感は今まで何もなし。ただ、稽古を終えて自宅に戻ると疲労感が激しく、夜更かしに無理が利かなくなっている。でもこれはたぶん手術とは無関係。恐らく、年とともに体力が落ちたか、やる気がないのか、ただ怠惰なだけ。
 今日の稽古は二、三回止めながらではあったが、前半を通ってみる。……まだまだ先は長いっす。 
 
喫茶店ミヤマ.jpg
今は喫茶店のこの場所に昔、とても個性的な小劇場があったことを今どれくらいの人が知っているのだろう。
その名も「ジァンジァン」。独特の匂いを持つ空間だった。

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2010年05月27日

老い日記[70]――生誕18,638日/禁煙23日目

 
  3時からの打ち合わせを終えて、本日も歯科医院へ。
 疼きのひどい下の左奥をなんとかしたいのだが、歯科医は「今日は上の左奥の歯をクリーニングしますね」と言う。
 上? 疼くのは下だと言ったはずだが聞こえなかったのか?
 「あの、疼くのは左奥の下なんですけど」「ああ、下はまだ炎症がひどいんでね、今日ガリガリやっちゃうと菌が広がっちゃう恐れがあるんですよ。ポケットが一番深いのは上のほうなんで今日は上をやっちゃいましょう」
 ……なんだか今イチ納得できないまま、左上奥に麻酔の注射が、ぶすっ、と刺さる。「ちょっとチクッとしますね」と歯科医は言ったのだが、ズッキーン! と一瞬、意識が吹っ飛ぶ痛さ。
 それでもただただ口をあんぐり開けて耐えるのみ。この痛みがやがて快感に……は変わりません。
 これは「老い」というより、長年のツケがたまっているのだなぁと、痛い痛いと疼きに耐えながら我が身をあざ笑う。
 
 夕方から『誰も見たことのない場所』の稽古。若手の前進はカタツムリの歩みよりのろい。マズいところをせっせせっせと手直ししても、数日経つとまた悪くなっている。まるで我が身の歯のような。歯周病菌で腐った歯は、もう抜くしかないのか?
 
歯磨き粉.jpg
食後の友。青い袋はうがい薬、結構すぐれもの。
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2010年05月26日

老い日記[69]――生誕18,637日/禁煙22日目

 
 靴下を長時間履いていると、くるぶしの上にしっかり「食い込み跡」が残って、これがなかなか元に戻らない。窪みの輪っかがいつまでも刻まれたまま。これもまた典型的な「老い」の証拠、肌の張り(弾性)なんてとっくになくなっている。これが見た目の問題だけなら別に構わないのだが、この窪みの輪っか、結構じんわり、じんわり痛い。
 ところが「スネ毛が見えてみっともない」と敬遠していたスニーカーソックスを履いてみると、とても楽。もちろん窪みの輪っかも残らない。ブラボー。若者カジュアル服の特権と思っていたが、これからはオジサンも進んで愛用します。くるぶし、見せます。スネ毛、チラ見せします。人が不快に思おうと知ったこっちゃありません、我が体の痛み軽減が何より大事です。

 夜、稽古はOFFだったが、次回公演のための実験。
 発泡スチロールの板、風船、注射器、白い布、絵の具、血糊、ビニール袋、カッターナイフ……。怪しげな道具をあれこれ駆使しつつ、最も効果的な方法を探る。芝居づくりには、こんな地味な作業も欠かせない。

眠れる森の死体(チラシ).jpg
次回公演フライヤー用の古川タクさんのイラスト。
15年前と同じものだが、今なおシンプルな線と色使いがブラボー。
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2010年05月25日

老い日記[68]――生誕18,636日/禁煙21日目

 
 昼前から会議のために新宿へ。刺激物を控えている我が身を気遣って事務局嬢が緑茶を出してくれようとするが、「今日、コーヒーにしてください」「いいんですか?」「退院してもう1週間経ったし、大丈夫っすよ」。この男、すっかり我が身の回復力を過信しております。でも久々に味わったコーヒーは至って普通。さしたる感動もなく、なんだか損した気になる。
 会議は1時間ほどで終わるだろうと高をくくっていたら、みっちり2時間超え。急いで新宿を後にする。

 4時すぎから上野にある大学で講義(実習)。毎年この時期の恒例になりつつあるこの授業、俳優志望でもない若者が相手なので彼らも今イチ盛り上がらず、こちらの「どSっぷり」も影を潜める。それでも中に、いかにもやる気のなさそうな、「なんでこんなことしなきゃいけねーんだよ?」的なオーラを出しまくっている男子学生が一人いて、てめぇ本気で喧嘩したろかと一瞬胸が騒ぐが、どうどうどう、と我が心を諫めてやり過ごす。

 久々の上野恩賜公園は相変わらず緑が多く、病み上がりには憩いの地。かつてのヘビースモーカーはどこに喫煙エリアがあるかも熟知しているが、今日は当然ながら素通り。もしもし皆さん、吸い過ぎは癌になるよ癌に、と心の中で毒づきながら。
 上野から西荻窪の稽古場に直行。日々の疲れが溜まっているのか、移動の電車内では頭がふらふら。立っているのも少々しんどい。なんとか辿り着き、ロビーで5分ほど休んでから、いざ稽古場へ。稽古は客演の女優Mが風邪を悪化させて欠席ながら、前半を通ってみる。登場人物の醸し出す空気の差が激しい。まだまだ箸にも棒にもかからない。(汗)

 古川タクさんのイラスト展が銀座で開催。6月1日〜13日、ギャラリー悠玄にて。イラストレーター3人展で古川さんの『はなのはなし、エトセトラ、、』はB1で。思わず、むふふふふ、となるユーモアいっぱいのイラストを今回も堪能しましょ。
 
鳩に餌を.jpg
上野恩賜公園に掲げられた横断幕。2行目がすごい。
「エサをあげないことがハトへの愛情です…」
放置系?
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2010年05月24日

老い日記[67]――生誕18,635日/禁煙20日目

 
 朝9時すぎにはリムジンバスに乗って空港へ。
 術後2回目のフライトも睡眠睡眠で何事もなく羽田着。電車を乗り継いで新宿まで辿り着いたところで、携帯電話の充電器をホテルに忘れたことに突然気づく。
 ホテルの部屋って、どうしてあんな妙な場所にコンセント口があるのだろう(バスルームのドア横の下のほうとか)、こんなところに挿しっぱなしにしておくと絶対忘れるよなぁ、と思っていたらホントに忘れた。まったくもって、なんであんなところにコン
セント口があるんだ? ホテルの部屋の構造が悪い、おかしい、と急に腹立たしくなりながら、人間、つけようと思えばどんなことにも文句をつけられるもんだと我ながらほとほと感心。

 先週から悲鳴をあげ始めた歯の疼きがいっこうに治まる気配がないので、稽古前に歯科医に駆け込む。
 「最近、歯ぎしりとかしてないですか?」と歯科医が聞く。
 歯ぎしり?
 「歯ぎしりをすると歯の長い糸切り歯がこすれ合って動いて、ぐらぐらしてくるんですよ。で、そこに菌が入りやすくなって、ぐらぐら動くたびに歯周ポケットが広がって両隣の歯にも菌が移ってっちゃうんですね。してないですか、歯ぎしり?」
 え? 歯ぎしりってしようと思ってするもんですか? と突っかかりたくなる気持ちをぐっと抑えて我が身を振り返ってみるが、寝てるときに歯ぎしりをする癖はない(していたと言われたこともない)。
 しないよなぁと思っていると、「歯に力を入れたり歯を食いしばったり、してないですか?」と歯科医は追い打ちをかける。
 え? 悔しくて歯ぎしりするとか、なにくそぉと思って歯を食いしばるとか、そういうこと? いやいや先生、もうそこまで若者のような情熱はないですよ、と言いかけて、いや待て、昨日・一昨日のオーディションで無駄に張り切っていた我が身をありありと思い出したが、いやいや、でも歯は食いしばってないよな、となんだか堂々巡りのような思考回路になっていると、「糸切り歯の歯周ポケットが広がらないように歯間ブラシ、頑張ってやってみてください」
 結局、歯磨きを頑張れという結論にやや拍子抜けしながら、「わかりました……」と答えるしか我に能はなし。

 歯科医院から稽古場に直行。若手男優の成長の遅さも腹立たしいが、若手女優はもっと厳しい。まぁ、基礎訓練もまだまだ、技術習得もこれからこれから、と自らをなだめるものの、でも本番は待ってはくれない。果たして間に合うのか? やはり我が劇団の稽古場がもっとも胃によろしくない。
 稽古後、次回公演主役の若手男優Oと世田谷まで車で出かけて芝居に使う映像の打ち合わせ。今日も帰宅は0時すぎ。今日もへろへろ。あー、体力落ちた落ちたと、どんより思う。
宮本武蔵.jpg
熊本空港の搭乗口には「宮本武蔵」のパネル展示が。熊本ゆかりの人物展らしく、右隣は「夏目漱石」、左隣は「細川ガラシャ」。展示に見入る人は皆無。
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2010年05月23日

老い日記[66]――生誕18,634日/禁煙19日目

 オーディション2日目。参加者は昨日か今日、どちらか1日を受けるというやり方になっていて、今日は一跡二跳の芝居に客演してもらったこともある女優Kさん、大学演劇部の後輩のN君など見知った顔がちらほら。
 今日は一日、地元テレビの追っかけ取材が入っていて、演出家にはピンマイクがつけられる。あれほど昨日たしなめられたのに、音声さんにマイクをつけてもらいながら、「跳んだりはねたりしても大丈夫ですか?」と思わず聞いてしまうこの男、経験が少しも学習になってません。おまけに、「あの、突然怒鳴ったり罵倒したり、大声を出すと思いますが」と聞かれてもいないのに自ら「どS宣言」をしてしまう。

 今日は午前11:00スタート、夜の7時まで。昨日とほぼ同じ流れで進行。運動は控えめに控えめに、テレビが入ってるからって無駄に張り切らないように冷静に、と我が身に言い聞かせつつも、声と体の連動など解説しながら、なんだかんだで結構動いてしまう。いかんいかん、自重しなければ。

 オーディションには昨日・今日の2日間で計50人が参加。熊本は小劇場が一つもないという寂しい演劇環境ながら、地元俳優たちは志もレベルも高い人が少なくないのが救い。
 長丁場のオーディションを吐血に見舞われることもなく今日も無事に終え、8時すぎから2作品まとめてキャスティング打ち合わせに突入。昨日、一日目を終えて不安がよぎったのだが、やはり若い女優の配役が難航。これがベストと思えど稽古時間の調整がつかなかったり、みんな働きながら芝居をしているので仕方がないこととはいえ、よし、これでいける!という配役を組むのは本当に難しい。今日もまた、あーでもないこーでもないと二転三転を繰り返し、ようやく終了したのは午前0時過ぎ。
 
 ホテルに戻ったら、今日もへろへろ状態。それでも3日間、大事には至らず乗り越えて、ホッとひと安心。万が一、熊本滞在中に吐血・下血などが起こった場合に備えて、熊本の病院宛てに紹介状(診療情報提供書)を2通も書いてもらっていたのだが、どうやら使わずにすみそうな気配。もしかして快復は順調? もしかして我が体、まだまだ若い?
 その診療情報提供書を読むと、詳しく書いてありました、我が癌について。
●所見:「胃角部後壁の病変径18mm×15mmの未分化混在型(tub 1-2)早期胃癌(UL−、深達度M/分類0-Uc)」
●処置:「ESD法(内視鏡的粘膜下層剥離術)、切除径40×38mm、筋層から出る3カ所の露出血管にクリップ」。
 ああ、結構な大きさを切ったんだな、と今さらながら人ごとのように思う。

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昼食に「太平燕」(タイピーエン)を食す。熊本に8年も住んでいながら、まったく知らなかった、「熊本伝統の味」。
太平燕.jpg
さっぱりした春雨のタンメンのような感じ。「ほんとに知らないんですかぁ?」と驚愕されたが、初の出会い。
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2010年05月22日

老い日記[65]――生誕18,633日/禁煙18日目

 
 「ワタクシごとですが、このあいだ癌の手術をして月曜に退院したばかりでして(笑)、医者から運動はまだやらないほうがいいと言われてる段階なので今日のウォーミングアップのストレッチは、こちらの俳優Oがやりますから、彼を見ながら見よう見まねで結構ですので無理せず体をあっためてください」
 ワークショップ&オーディションの冒頭で参加者を前にそう挨拶しておきながら、ストレッチの音楽がかかるとすぐさま先頭に立って張り切って動く。とことん天の邪鬼です、この男。俳優Oからも「俺を信用してない」と責められる。
 おまけに一旦やり始めたら、やめるタイミングが難しくて、やがて汗も滴り落ちて、無理せず体をあっためろと言った本人が誰よりも無理をしていると思われ、劇場サイドのスタッフ陣に「無理しないでください、怖くて見てられません」とたしなめられる始末。人の迷惑顧みず見栄を張ります、この老い男。

 ワークショップ&オーディションは午後1時から9時までの長丁場。@ウォーミングアップ A体のコントロール(インクラネーション、ローテーション) B体と呼吸の連動(ウォーキング、ツーステップ) C発声(体との連動、リズムを意識して) D「外郎売」をテキストに、「セリフをいかに聞いて、いかに合わせられるか」の練習 E上演台本を使ってのセリフの読み―― という流れで、途中休憩1時間を挟んで、みっちり7時間。
 その後、キャスティングを念頭に置きつつ、明日に向けての打ち合わせをあーでもないこーでもないと繰り返し、ホテルに戻ったのは11時すぎ。

 幸い、胃が痛むことも体調不良に陥ることもなく無事に終えたが、さすがに疲労感たっぷり。
 この疲れを明日に持ち越してはならぬ、ゆっくり体をほぐそうじゃないかとバスタブにお湯を張って浸かり、あー、はー、ふー、とじじぃのように極楽極楽と思っていたら、「退院しても2週間はお湯には浸からずシャワーにしてくださいね」という医者からの注意を突然思い出して、慌てて風呂から上がり、そのドタバタぶりでかえって疲労が溜まる。

恥ずかしい.jpg
劇場の案内板には、大写しの顔写真入りパネルが。
は、恥ずかしい……。指名手配?
オーディションはこちら.jpg
ここから未来のスターが?
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2010年05月21日

老い日記[64]――生誕18,632日/禁煙17日目

 朝からバタバタと準備をし、キャリーバッグを転がし新宿での会議へ。白熱する会議を尻目に、「すみません」と後ろ髪引かれつつ1時間で中座して、急いで羽田へ。
 十分間に合う計算だったのに、接続が悪く、乗り換えではダッシュを繰り返し、なんとかぎりぎりに着くと、搭乗口は既にファイナルコール。慌てて乗り込む。
 「重い物を持たない、運動は控えめに」
 手術後の注意事項が頭を掠めるが、「理想と現実は違うんじゃい」と、駅では重いキャリーバッグを持って階段を駆け上がり、空港では一番奥の搭乗口まで小走りし、機内の座席に着いたときには汗だくだく。
 これで離陸したら気圧の変化で胃の傷口から間違いなく血が噴き出すなと思いながら、いざ飛び立つと、さっさと爆睡。
 血を見ることもなく無事、熊本着。迎えに来てもらった車でそのまま劇場へ行き、そこから怒濤の打ち合わせ。
 3時半頃から制作担当と明日の実務打ち合わせ、若い作家と1作品目のテキレジ打ち合わせ、主要スタッフが揃ったところで企画打ち合わせ、ベテラン作家と2本目のテキレジ打ち合わせ、制作担当と契約についての打ち合わせ。
 終わってみれば夜の9時。この間、一度の休憩もなし。いっそ、胃壁から血が噴き出せば休めるのにと思う。

 夜の10時前にホテルにチェックイン。ライトアップされた夜の熊本城が素晴らしくかっこよく、しばし見とれて胃壁を癒す。そんなもんじゃ胃壁は癒されません。

夜の熊本城.jpg
夜の熊本城。我が名前に「城」がつくからか、城には妙に惹かれる。(この写メ、ズームで撮ったらピンボケしまくり)
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2010年05月20日

老い日記[63]――生誕18,631日/禁煙16日目

 気がつけば左下の奥歯が疼く。油断していたわけではない。入院中も3食、食後に必ず歯は磨いていた。でも昨日から疼いている。磨いても歯が疼く。これが老いというものか。
 「もしかしたらこの歯は神経が腐ってるかもしれませんね」
 確かにおよそひと月前、歯医者にはそう言われていた。この歯がこのまま死に絶えてしまうのか、いやまだまだ、と現役続行できるのかは、ひとえに毎日の地味な歯磨き次第、そう心得ていたのに、疼いている。闘いに敗れ、この奥歯はこのまま死んでしまうのか?

 入院中の日課が体に染みついているのか、毎朝6時過ぎには目が覚める。それとも単に、これが老いというものか。ともあれ連日、睡眠不足で頭が重い。
 今日も早々に目が覚めて、午前中は書きもの仕事。
 午後は新国立劇場に『夢の泪』を観にいく。芝居を観ながら、井上さん、もういないんだなぁと切なさが込み上げる。

 終演後、夕方から稽古。
 ダメ出しに変わらない(変われない)男優に思わず声を荒げる。おかげでストレスは溜まるし、血圧は上がるし(たぶん)、体に最もよくないのは芝居の稽古だと心底思う。

高級みかん.jpg
広島の演出家&女優のTさんからお見舞いに高級みかん「アンコール」が届く。種は多いが、味は極上。感謝。

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2010年05月19日

老い日記[62]――生誕18,630日/禁煙15日目

 
 退院しても薬は飲まなきゃならない。処方されているのは「アルロイドG」と「パリエット錠10mg」。どちらも胃の粘膜を修復したり保護したりする薬。
 「今も抗ガン剤は飲んでるの?」と知人に聞かれたが、飲んでません。今も昔も飲んでません。そこまで病状を勝手に悪化させないでください。
 飲んでるのは上記の二つだけ。ともに食前に飲むのだが、退院した途端、食事の時間が不規則になっているので、どのタイミングで飲めばいいのか意外と困難。
 というか、病院では1日3食だった食事が2食になったりもしてるので、薬は丸々3週間分ももらっているのに予定通り減っていかない。主任医師のY先生、どうすればいいですか? 適当でいいですか? まとめ飲みってのもありですか?(ありません)

 今日は朝から会議。女優にして演出家のSさんに「癌は一回できるとできやすくなるから、気をつけてね」と笑顔で言われる。なんでも同じ劇団の演出家が何度も内視鏡手術をやってるらしく、「おできを取るように何度も取ってるわよ」。
 人間、人のことにはどこまでもドライになれるんだと痛感。

 稽古は休み。制作のF女史が矢継ぎ早に投げてよこす仕事を次から次にこなそうとするが、少し息切れ状態。
 左のこめかみに時折、ズキン!と走る痛みが気になる。
 
胃壁保護.jpg
右が「アルロイドG」。緑色でどろりとしていて結構、不気味。
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2010年05月18日

老い日記[61]――生誕18,629日/禁煙14日目

 
 癌も手術も何事もなかったかのように、慌ただしく仕事仕事に追われる生活に戻っている。それもびっくりするほど簡単に。
 時間には、個人の中に流れる時間と、社会の中に流れる時間の二つがあって、個人の時間の流れで生きたいと思っていても、否応なく社会の時間に引きずりこまれていく。
 「ねぇ、もっとゆっくり! ゆっくり!」。そう叫んでも、置いていかれるだけ。誰も、何も、待ってはくれない。病院で自分の時間の流れと向き合っていただけに、そのギャップを埋めるのは実に大変。いつのまにか体に疲労が溜まっている。
 「退院しても1週間は自宅で安静にしていてくださいね」
 主任医師のY先生に言われたけれど、無理です、Y先生。どうか強制的に、麻酔を打ってください。

 午後から会議が二つ。
 体の具合をプロデューサーY氏に聞かれ、「昨日、退院したんです」と言うと、「なんかさっぱりしてるよ。いろんな悪いものが全部落ちてすっきりしたんじゃない?」。
 いえいえ、世の中の流れについていくのに必死です。それより、何ですか、「いろんな悪いもの」って。
 誰か、Y氏にも麻酔打って黙らせてください。

 会議終了後、稽古場に直行。
 ここまで、まともに食事を摂ってなくて、コンビニおにぎりを急いで食べて稽古に入る。稽古では先へ先へ流れをつくろうとするが、若手男優でいちいち引っかかって停滞、何度もぶち切れそうになる(たぶん、血圧も急上昇)。
 主任医師のY先生、こんな毎日で大丈夫っすか? あと1年ぐらい入院し直してもいいっすか?

病室?.jpg
退院間際の病室。PC2台がつけっぱなしで、仕事場とほとんど変わらない。一番上に見えるモニターはテレビ。長いアームで自由自在に場所も角度も動かせる。(拍手)
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